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長期金利上昇でJAに異変|国債価格下落が農協経営を直撃
財務省が公表した2026年7月2日の10年利付国債入札では、募入最高利回りが2.755%まで上昇しました。さらに財務省は2026年8月17日にも、8月14日時点の国債金利情報を更新しています。10年国債利回りでも「3%」という数字が現実味を帯びてきました。
金利が上がれば、預金者には預金金利上昇というメリットがあります。
しかし、低金利時代に長期国債などを大量に購入してきた金融機関にとっては、全く違う景色が見えています。
全国のJA(農業協同組合)が公表している2025年度・令和7年度のディスクロージャー資料や決算資料を確認すると、国債などの価格下落を受けて有価証券を売却し、巨額の損失を計上したJAが複数確認できます。
なかには100億円を超える赤字となったJAもあります。
今回は、筆者が2026年8月17日時点で確認できた各JAの公式資料を横断して、2025年度の当期損失額を中心に「JA損失ランキングTOP10」を作成しました。
特に注目したのは、国債・地方債・社債などの価格下落による売却損や減損処理です。
細かい背景についてはランキングの後で解説します。
それでは10位から見ていきましょう。
第10位 JA秋田しんせい|当期損失 約14.65億円
第10位は、秋田県のJA秋田しんせいです。
2025年度は約14億6,500万円規模の当期損失となる厳しい決算となり、有価証券の処分が大きなポイントになりました。
JA秋田しんせいは2026年7月31日に「Disclosure 2026」を公開しています。
今回のランキングで注目したいのは、単に農業関連事業が苦戦して赤字になったのではなく、信用事業で保有していた債券の価格下落が経営に影響した点です。
金利上昇局面では、償還までの期間が長い債券ほど価格変動が大きくなります。
低金利だった時期に購入した長期債券を抱えている場合、現在のような急激な金利上昇局面では、その債券を市場で売却すると大きな損失が発生する可能性があります。
JA秋田しんせいは、まさに今回の「金利上昇時代のJA経営」を考えるうえで象徴的な事例の一つと言えるでしょう。
第9位 JA木更津市|当期損失 約15.01億円
第9位は、千葉県のJA木更津市です。
2025年度の当期損失金は15億98万8,000円となりました。
事業損失は約15億5,851万円、経常損失は約15億1,469万円となっており、かなり大きな赤字です。
特に重要なのが国債です。
JA木更津市は公式ディスクロージャーで、評価損が発生していた国債を処分し、新たに国債を購入したことを明らかにしています。
これは、含み損を抱えたまま低利回りの国債を保有し続けるのではなく、一度損失を確定させ、その後の高い金利環境で運用を組み直す判断と考えられます。
短期的には大幅な赤字になりますが、将来の運用収益を改善するための「痛みを伴うポートフォリオ再構築」と見ることもできます。
第8位 JA成田市|当期損失 約16.33億円
第8位は、同じく千葉県のJA成田市です。
JA成田市は2025年度に約16億3,300万円の当期損失を計上しました。
公式資料では、金利上昇によって保有有価証券の評価額が低下したことを受け、2025年12月に保有していた債券について売却を決定したことが説明されています。
売却対象となった債券は85銘柄、帳簿価額で約115億9,100万円に達しました。
その結果、事業損失は約15億5,000万円、経常損失は約15億1,300万円、最終的な当期損失金は約16億3,300万円となっています。
単体自己資本比率も10.44%となりました。
100億円を超える規模の債券ポートフォリオを整理した点は非常にインパクトがあります。
ただし、これも「債券価格が下落したから直ちにJAが危険」という話ではありません。
将来さらに金利が上昇した場合のリスクを減らすため、あえて現在の損失を確定させるという経営判断でもあります。
第7位 JA愛媛たいき|当期損失 約20.67億円
第7位は、愛媛県のJA愛媛たいきです。
今回のランキングの中でも、長期金利上昇と赤字の関係が非常に分かりやすいJAです。
2025年度の当期損失金は20億6,698万7,000円。
公式ディスクロージャーでは、年度末に国債金利が急上昇し、保有していた30年国債の価格が大幅に下落したと説明しています。
そして、減損処理が必要になる可能性が高まったことなどから、30年国債約43億円を売却。
その結果、約21億円もの売却損が発生しました。
JA自身も、有価証券売却損がなければ当初計画を上回る事業利益を確保できており、本業の収支構造悪化による赤字ではないと説明しています。
ここは非常に重要です。
JA愛媛たいきの事例は、「農協の本業が急激に悪化したから20億円の赤字になった」という単純な話ではありません。
長期債券の価格下落に対処するため損失を一気に確定させた結果、単年度の決算が大幅赤字になったわけです。
第6位 JA京都にのくに|当期損失 約23.81億円
第6位は、京都府北部を営業地域とするJA京都にのくにです。
2025年度の当期剰余金はマイナス23億8,083万8,000円となり、約23.81億円の当期損失となりました。
前年度も約2.65億円の赤字でしたが、2025年度は赤字幅が大きく拡大しています。
純資産額も前年度の約73.13億円から約65.45億円へ減少しました。
さらに注目すべきなのが有価証券です。
2025年度に売却したその他有価証券では、
国債:約10.17億円
地方債:約13.73億円
政府保証債:約1.28億円
社債:約1.53億円
の売却損が発生しました。
合計すると約26億7,159万円です。
つまり、最終赤字額を上回る規模の債券売却損を処理したことになります。
今回調査したJAの中でも、債券価格下落と赤字転落との関係が極めて明確な事例です。
第5位 JA福井県|当期損失 約26.51億円
第5位はJA福井県です。
2025年度の当期損失は26億5,109万3,000円。
税引前当期損失も約26億1,227万円、経常損失も約22億円となりました。
キャッシュ・フロー計算書では、有価証券関係損益として約22億7,537万円の損失が確認できます。
JA福井県も公式資料の中で、市場金利上昇に伴って有価証券の評価損が拡大したことなどを踏まえ、有価証券を売却したことを説明しています。
JA福井県ほどの規模でも20億円を超える有価証券関係損失が発生したことは、今回の金利上昇が一部の小規模JAだけの問題ではないことを示しています。
第4位 JAひろしま|当期損失 約36.01億円
第4位はJAひろしまです。
2025年度の連結ベースの当期損失金は36億50万円となりました。
有価証券関連損失も約11億7,800万円計上されています。
ただし、ここは注意が必要です。
JAひろしまの場合、今回の赤字を「国債価格下落だけ」が原因だったと考えるのは適切ではありません。
固定資産の減損損失が約50億2,000万円計上されており、こちらの影響も非常に大きくなっています。
そのため、本記事では赤字額で4位としていますが、「債券ショックの深刻度」だけで順位をつければ、JA愛媛たいきやJA京都にのくにの方が上位になると筆者は考えています。
赤字額だけで金融機関の状態を判断してはいけない理由がよく分かる事例です。
第3位 JA埼玉ひびきの|当期損失 約48.9億円
いよいよTOP3です。
第3位はJA埼玉ひびきのです。
2025年度は約48.9億円もの当期損失となりました。
さらに注目したいのが、有価証券売却損です。
公式ディスクロージャーでは、金利上昇による有価証券の評価損拡大を受け、保有を継続することで自己資本を毀損するリスクなどを考慮し、2026年2月に満期保有目的以外の有価証券を売却しています。
有価証券売却損は約53.73億円。
内訳では、国債だけでも約32.20億円規模となりました。
さらに単体自己資本比率は前年度の17.21%から7.60%まで低下しています。
これは今回のランキングで筆者が最も注目したポイントの一つです。
単年度赤字だけなら、その後の利益で回復できる可能性があります。
しかし、「債券損失の確定 → 利益剰余金減少 → 自己資本比率低下」まで進んでくると、次の金利ショックへの耐久力にも影響してきます。
JA埼玉ひびきのは、今後のJA金融事業を考えるうえで極めて重要な事例だと考えます。JAは公式サイトで2026年版ディスクロージャーを公開しています。
第2位 JAわかやま|当期損失 約77.12億円
第2位はJAわかやまです。
2025年度の当期剰余金はマイナス77億1,200万円。
経常段階でも約50億8,600万円の損失となる非常に厳しい決算でした。
単体自己資本比率は15.86%です。
しかし、それ以上に驚くのが国債の減損処理です。
2025年度の有価証券減損処理額は89億4,700万円。
しかも、その全額が「その他有価証券の国債」です。
約89億円です。
今回調査したJAの中でも突出した規模です。
ここで重要なのが「売却損」と「減損」の違いです。
債券を市場で売却して損失を確定させるケースだけではなく、価格下落が著しく回復可能性などの条件を満たさない場合、会計上の減損処理を行わなければならない場合があります。
つまり、「売らなければ損失にならない」とは限りません。
金利上昇が長期化すれば、こうした減損問題が他のJAでも表面化する可能性があります。
第1位 JA大井川|当期損失 約121億円
そして第1位は、静岡県のJA大井川です。
2025年度の最終損失は約121億円。
今回確認した中で唯一、100億円を超える赤字となりました。
最大の要因の一つが有価証券です。
JA大井川の公式資料では、金利上昇によって国債などの価格が下落し、評価損が拡大したことから、有価証券の売却を実施。
有価証券売却損は約97億円に達しました。
さらに固定資産の減損損失約18億円も計上しています。
単体自己資本比率は10.65%となりました。
約97億円の有価証券売却損は衝撃的です。
ただ、ここでも「97億円損した=97億円のお金が突然消えた」と単純化するのは適切ではありません。
低金利時代に購入した債券を現在の低い市場価格で売却したことで、これまで抱えていた評価上の損失を実現損として確定させたという側面があります。
とはいえ、約121億円の最終赤字が内部留保や自己資本に与える影響は小さくありません。
今回のJA債券問題を象徴する決算と言えるでしょう。
JA損失ランキングTOP10まとめ
ここまでの結果をまとめると、次のようになります。
| 順位 | JA | 2025年度の当期損失 | 主な有価証券関連要因 |
|---|---|---|---|
| 1位 | JA大井川 | 約121億円 | 有価証券売却損 約97億円 |
| 2位 | JAわかやま | 約77.12億円 | 国債減損 約89.47億円 |
| 3位 | JA埼玉ひびきの | 約48.9億円 | 有価証券売却損 約53.73億円 |
| 4位 | JAひろしま | 約36.01億円 | 有価証券関連損失 約11.78億円+固定資産減損 |
| 5位 | JA福井県 | 約26.51億円 | 有価証券関係損失 約22.75億円 |
| 6位 | JA京都にのくに | 約23.81億円 | 債券売却損 約26.72億円 |
| 7位 | JA愛媛たいき | 約20.67億円 | 30年国債売却損 約21億円 |
| 8位 | JA成田市 | 約16.33億円 | 保有債券85銘柄を売却 |
| 9位 | JA木更津市 | 約15.01億円 | 評価損が発生した国債を処分 |
| 10位 | JA秋田しんせい | 約14.65億円 | 有価証券処分の影響が大きい |
※本ランキングは「経営破綻リスクランキング」ではありません。2026年8月17日時点で確認できる2025年度・令和7年度の各JA公式決算・ディスクロージャーを筆者が横断し、当期損失額を基本に順位付けしたものです。決算期や会計処理、連結・単体の違いがあるため、完全に同一条件で比較できるものではありません。また、すべてのJAの財務健全性を示すものでもありません。
なぜ長期金利が上がるとJAが赤字になるのか
今回起きていることを簡単に整理すると、
「長期金利上昇 → 国債価格下落 → 含み損拡大 → 売却・減損 → 損失確定 → 当期赤字 → 自己資本低下」という流れです。
債券価格と金利は反対方向に動きます。
例えば、昔購入した年0.5%程度の国債を保有しているとします。
その後、市場では年3%近い利回りの国債が購入できるようになったとすれば、わざわざ0.5%しか利息を生まない古い国債を同じ100円で買う投資家はいません。
そこで古い国債の市場価格が下がります。
これが債券価格下落の基本的な仕組みです。
日本銀行や財務省も国債市場、金利、債券価格について継続的に情報を公表しています。財務省の2026年7月の10年国債入札では最高利回りが2.755%まで上昇しており、低金利時代とは明らかに環境が変わっています。
なぜJAは長期債券の影響を受けやすかったのか
JAには組合員や地域住民から大量の貯金が集まります。
その一方、地方では集めた貯金すべてを地域の貸出だけで運用することは難しく、余裕資金の一部を預金や有価証券で運用します。
全国のJAの2025年3月末時点の有価証券残高は約8兆623億円に達しています。全国JAの平均自己資本比率は14.9%でした。
つまり、JA全体が危機的ということではありません。
問題は「どの年限の債券を、どの利回りで、どのくらい保有しているのか」です。
特に20年、30年といった超長期国債は金利変動に対する価格感応度が高いため、金利上昇局面では価格が大きく下落します。
JA愛媛たいきが30年国債の売却によって約21億円の損失を出したことは、そのリスクを非常に分かりやすく示しています。
「含み損」と「実現損」は分けて考える必要がある
ここは非常に重要です。
国債価格が下がって含み損が発生したからといって、必ずその金額だけ決算赤字になるわけではありません。
満期まで保有し、額面どおり償還されれば、途中の市場価格低下がそのまま最終損失になるとは限りません。
問題になるのは、
・資金需要などから途中売却する必要が生じた
・自己資本への影響を抑えるためポートフォリオを整理した
・価格下落が大きく減損処理が必要になった
・将来の金利上昇リスクを減らすため損切りした
といったケースです。
農林水産省のJA検査・監督に関する資料でも、有価証券残高だけではなく、評価益・評価損や自己資本などを確認する仕組みになっています。
JAの巨額赤字は本当に「経営危機」なのか
筆者は、赤字額だけを見て「このJAは危ない」と判断するのは早計だと考えています。
例えばJA愛媛たいきは、国債売却損がなければ当初計画を上回る事業利益だったと説明しています。
つまり、「本業が赤字だから債券を売った」のと、
「本業は利益が出ているが、将来の金利リスクを減らすため債券を損切りした」のとでは意味が全く違います。
むしろ筆者が注目するのは、赤字額そのものよりも、「損切り後に自己資本がどれだけ残っているか」です。
特に自己資本比率が大きく低下したJAについては、今後の決算を継続して確認する必要があると考えています。
なぜ今になって一気に損切りが増えているのか
低金利時代には、金利が多少上昇しても「いずれ落ち着くだろう」と考え、含み損を抱えながら債券を持ち続ける選択も可能でした。
ところが現在は状況が変わっています。
2026年7月の10年国債入札では2.755%という水準まで利回りが上昇しました。
もし金利上昇が一時的ではなく、日本の金利構造そのものが変化しているのであれば、
「含み損が戻るまで待つ」という戦略が通用しない可能性があります。
そうなれば、多少大きな損失を出してでも低利回りの長期債を処分し、現在の高い利回りで新しい債券を買い直した方が、中長期的には収益改善につながる可能性があります。
2025年度に巨額赤字が相次いだ背景には、このような「過去の低金利ポートフォリオの清算」という側面もあると筆者は見ています。
長期金利上昇が止まらなければ、JAはどうなるのか
最後に、ここからは筆者の予想です。
仮に長期金利の上昇が今後も止まらず、10年国債利回りが3%を超え、さらに高い水準へ向かう場合、2026年度以降もJAの有価証券問題は続く可能性が高いと考えています。
特に注意したいのは、2025年度にまだ債券を売却していないJAです。
2025年度に損切りしたJAは、大幅赤字という痛みを受ける一方、低利回り債券を整理し、新しい高利回り資産へ入れ替えることができます。
むしろ問題になるのは、「大きな含み損を抱えているが、まだ表面化していないJA」かもしれません。
金利がさらに上昇すれば、
含み損拡大
↓
減損リスク上昇
↓
債券売却
↓
当期損失
↓
利益剰余金減少
↓
自己資本比率低下
という連鎖が、2026年度以降にも続く可能性があります。
一方で、すでに損切りを終えたJAについては、今後は逆の展開も考えられます。
現在のような高い金利水準で国債などを買い直すことができれば、今後数年間にわたり、低金利時代よりも高い利息収入を得られる可能性があるためです。
つまり筆者は、2025~2027年度あたりが「JAの有価証券運用の世代交代期」になる可能性があると考えています。
低金利時代に積み上げた低利回り債券を、どこまで整理できるのか。多額の損失を計上した後でも、十分な自己資本を維持できるのか。そして、高金利時代に対応した新たな資産運用へ、どれだけ早く切り替えられるのか。
今後JAの経営状況を見るうえでは、単純な「赤字額」だけで判断するのではなく、「有価証券の含み損」「利益剰余金」「自己資本比率」「債券の残存期間」まで確認することが、これまで以上に重要になるでしょう。
金利上昇は、預金者にとっては預金金利の上昇という追い風になります。その一方で、低金利時代に長期債券を大量に購入してきた金融機関にとっては、過去の運用を整理し、新たな金利環境へ適応することを迫られる局面でもあります。
今回のJAの巨額赤字は、単なる一時的な損失ではなく、日本が長い低金利時代から「金利のある世界」へ移行する過程で表面化した、象徴的な出来事の一つなのかもしれません。
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出典・引用
財務省「国債金利情報」
財務省「10年利付国債(第383回)の入札結果(令和8年7月2日入札)」
日本銀行「国債金利」
農林水産省「信用事業を行う協同組合連合会検査実施要領」
本ランキングは、2026年8月17日時点で各JAが公表している2025年度の決算・ディスクロージャー資料をもとに、当期損失額を中心に筆者が独自集計したものです。損失額は、JAの経営危機や破綻リスクを直接示すものではありません。有価証券売却損や減損には、将来の金利リスクを抑えるための資産入れ替えによる一時的な損失も含まれます。そのため、「赤字額が大きい=経営状態が悪い」とは限らない点にご留意ください。また、本記事にはAmazonアソシエイト・プログラムを利用した商品紹介リンクが含まれる場合があります。