最近、中小企業や零細企業、スタートアップなどをターゲットにした新しい金融サービスが増えています。これまで法人口座といえば、メガバンク、地方銀行、信用金庫などが中心でしたが、現在は銀行機能とクラウドサービスを組み合わせ、振込手数料の削減や経理業務の効率化まで踏み込んだサービスも登場しています。
その中でも今回取り上げたいのが「ラクスルバンク」と「フィンサーバンク」です。名前だけを見ると、どちらも新しいネット銀行のように感じますが、実際にはサービスの成り立ちも、強みもかなり異なります。ラクスルバンクはGMOあおぞらネット銀行の「ラクスルバンク支店」を利用するサービスで、ラクスルバンク株式会社が銀行代理業者としてサービスを提供しています。一方、フィンサーバンクは北國銀行の「フィンサー支店」と連携し、株式会社f9kが金融サービス仲介業者などとしてサービスを提供する仕組みです。
先に結論をいえば、この2つを「どちらの銀行が上か」という視点だけで比べるのは、あまり適切ではありません。ラクスルのサービスを利用する機会が多く、月額料金をかけずシンプルな決済口座を持ちたい会社ならラクスルバンク。一方、請求書処理、振込、経費精算などバックオフィス全体を効率化したい会社ならフィンサーバンクが候補になります。
また、どちらも地方銀行や信用金庫などのメインバンクを完全に置き換えるのではなく、「支払い・決済を担当するセカンド口座」として活用する方法が相性の良い使い方だと考えます。今回はラクスルバンクとフィンサーバンクについて、振込手数料、口座維持コスト、経理機能、使いやすさ、向いている企業などを比較していきます。
※本記事のサービス内容・手数料は2026年9月時点の公式情報を基にしています。料金・条件等は変更される場合がありますので、申込前に必ず公式ページをご確認ください。
ラクスルバンクとは?
ラクスルバンクは、印刷・広告などのサービスで知られるラクスルグループが展開する中小企業向け金融プラットフォームです。銀行そのものをラクスルグループが設立したわけではなく、銀行機能を提供しているのはGMOあおぞらネット銀行です。実際に開設される口座は「GMOあおぞらネット銀行 ラクスルバンク支店」の口座となり、ラクスルバンク株式会社はGMOあおぞらネット銀行を所属銀行とする銀行代理業者としてサービスを提供しています。
ラクスルグループはもともと印刷や広告など、中小企業が日常的に利用する業務支援サービスを展開してきました。その顧客基盤から金融サービスへ進出したという点が、ラクスルバンクの大きな特徴といえます。
ラクスルバンクの最大の特徴はシンプルな料金体系
法人向け銀行口座をセカンド口座として利用するとき、意外と気になるのが月額基本料金です。「振込手数料を少し安くするために口座を増やしたものの、月額料金がかかって結局あまり得ではなかった」というケースでは意味がありません。
ラクスルバンクでは、月額基本手数料、口座維持手数料、管理費用、口座開設手数料がいずれも0円とされています。そのため、「とりあえず法人の決済用口座をもう1つ持っておきたい」という中小企業にとって、比較的導入しやすいサービスといえるでしょう。
他行宛の振込手数料は一律119円
ラクスルバンクの他金融機関宛て振込手数料は、振込金額にかかわらず1件119円(税込)です。GMOあおぞらネット銀行宛ては無料となっています。例えば毎月50件の他行振込を行う場合、単純計算では月5,950円となります。
取引先や外注先への振込件数が多い小規模企業では、振込手数料は年間で見ると無視できない経費になります。特に従来型の銀行で数百円程度の振込手数料を支払っている会社であれば、振込専用口座を作るだけでもコスト削減につながる可能性があります。
ラクスルを利用している企業とは相性が良い
もう一つ見逃せないのが、ラクスルグループとの連携です。ラクスルバンク支払いでは通常2%のポイント還元があり、獲得したポイントはラクスルのサービスで1ポイント=1円として利用できます。また、Visaデビットカードも利用でき、対象となる決済ではポイントを貯められます。なお、税金や公共料金などポイント対象外となる取引もあるため、実際の利用条件は確認が必要です。
会社案内、チラシ、名刺、封筒、ノベルティ、広告などをラクスルで頻繁に発注している会社なら、単なる銀行口座以上のメリットを感じやすいでしょう。このあたりは、フィンサーバンクとは方向性がかなり違います。
申請・承認フローにも対応
小規模企業であっても、経営者本人がすべての振込作業を行っているとは限りません。経理担当者が振込データを作成し、社長や責任者が最終承認する会社もあります。
ラクスルバンクでは振込時の申請・承認フローに対応しており、新規振込先、登録済み振込先、振込履歴、全銀協フォーマットを利用した複数振込など複数の方法から申請できます。つまり「単に振込手数料が安いだけの口座」ではなく、法人利用を前提とした管理機能も備えています。
最短当日の口座開設にも対応
ラクスルバンクでは、条件を満たした場合は口座開設審査が最短当日とされています。公式案内では、申込操作がラクスル側で約5分、GMOあおぞらネット銀行側で約15分、その後審査が最短当日~1週間程度という流れです。代表者と取引責任者が同一で、マイナンバーカード読取またはセルフィーによる本人確認を行うことなどが最短当日の条件となります。
従来型の銀行のように店舗へ行く時間を取りにくい経営者にとって、オンライン中心で手続きできることは大きなメリットでしょう。ただし、口座開設にはGMOあおぞらネット銀行による審査があります。また、ラクスルバンクは個人事業主からの申込には対応していないため、法人向けサービスとして考える必要があります。
✓ 他行宛振込手数料 1件119円(税込)
✓ 法人の振込・決済用セカンド口座にも
✓ ラクスルのサービスとの連携も魅力
フィンサーバンクとは?
フィンサーバンクも、中小企業の決済・経理業務に焦点を当てたオンライン型の金融サービスです。ただしラクスルバンク以上に「経理DX」の色が強いサービスと考えると分かりやすいでしょう。
フィンサーバンクを提供する株式会社f9kは銀行ではなく、金融庁に登録された金融サービス仲介業者です。実際の銀行口座は北國銀行の「フィンサー支店」に開設され、フィンサーバンクと北國銀行が連携することで銀行機能を提供しています。
フィンサーバンクは「振込+経理」が大きな特徴
フィンサーバンクの特徴を一言で表現するなら、「銀行口座と経理システムの境目を小さくしたサービス」といえるでしょう。
一般的な会社では、請求書を受け取り、内容を確認し、振込先や金額を銀行システムへ入力し、振込を実行した後に会計ソフトへ登録するという作業が発生します。取引先が10社程度ならまだしも、毎月50社、100社と請求書を処理する会社になると、この作業だけでも相当な時間が必要になります。
フィンサーバンクでは、請求書をAIで読み取り、振込データ作成から実際の振込までワンストップで行うことができます。専用メールアドレスに届いた請求書ファイルを自動的に取り込む機能や、稟議、経費精算、請求書発行、入金確認、会計ソフトとのデータ連携なども用意されており、ここがフィンサーバンク最大のアピールポイントです。
振込手数料は90円から
フィンサーバンクにはフリー、スタンダード、プロの3プランがあります。2026年9月時点の公式料金表では、フリープランは月額0円、スタンダードプランは月額2,980円、プロプランは月額7,980円です。
他行宛振込手数料はフリープランが1件110円、スタンダード・プロプランが1件90円となっています。同行宛ては各プラン13円で、給与振込についてはフリー110円、スタンダード50円、プロ21円となっています。
単純な振込手数料だけなら、かなり競争力があります。ただし「90円」という数字だけを見て有料プランを選ぶ必要はありません。例えば他行宛振込だけを比較すると、スタンダードプランはフリープランより1件20円安くなりますが、月額料金が2,980円かかるため、振込手数料だけで月額料金を取り戻すには単純計算で約149件以上の他行振込が必要になります。
一方、ラクスルバンクの119円とフィンサーバンク・スタンダードの90円との差は29円なので、こちらは月約103件の他行振込が一つの目安となります。もちろん実際には、AIによる請求書処理、メール取込、経費精算、複数ユーザー管理なども含まれるため、有料プランの価値を振込手数料だけで判断するのは適切ではありません。
少人数経理ほど効果を感じやすい可能性
フィンサーバンクが面白いのは、大企業よりもむしろ経理担当者が少ない中小企業でメリットが大きくなりやすい点です。従業員10人の会社で専任経理担当者が1人しかいない、あるいは社長自身が請求書を確認して振込まで行っている会社では、「毎月数時間の振込作業」がそのまま経営者の時間を奪っています。
フィンサーバンクのフリープランでも請求書AI読取から振込までの機能を月5件まで利用できます。スタンダードは20件まで、プロプランは制限なしとされているため、まず無料プランで操作感を確認し、請求書件数が増えてきたら上位プランへ移行するという使い方も考えられます。
なお、公式ページでは利用対象を株式会社、有限会社、合同会社としています。すべての法人や個人事業主が利用できるわけではない点には注意が必要です。
✓ 北國銀行と提携した法人向けサービス
✓ 請求書処理から振込まで効率化
✓ 決済用のセカンド口座としても注目
ラクスルバンクvsフィンサーバンクを比較
ここまでの内容を整理すると、両サービスは似ているようで、実際には狙っているところが少し違います。
| 比較項目 | ラクスルバンク | フィンサーバンク |
|---|---|---|
| 銀行機能の提供元 | GMOあおぞらネット銀行 | 北國銀行 |
| 口座 | ラクスルバンク支店 | フィンサー支店 |
| サービスの方向性 | 決済・デビット・ラクスル連携 | 振込・請求書・経理DX |
| 月額料金 | 0円 | 0円~7,980円 |
| 他行宛振込 | 119円/件 | 90円~110円/件 |
| 同行宛振込 | 無料 | 13円/件 |
| 請求書AI読取 | 経理DXより銀行機能が中心 | 対応 |
| 稟議・経費精算 | 振込申請・承認に対応 | 対応 |
| デビットカード | Visaデビット対応 | 経理・振込機能を中心に展開 |
| ラクスルとの連携 | 強い | なし |
| 向いている企業 | シンプルな決済口座が欲しい企業 | 請求書・振込業務を減らしたい企業 |
ラクスルバンクは「銀行を使いやすくする」という方向性が強く、フィンサーバンクは「経理業務と銀行を一体化する」という方向性が強いと考えると分かりやすいでしょう。
ラクスルバンクがおすすめなのはこんな会社
ラクスルを普段から利用している会社
ラクスルで印刷物や広告などを発注する機会が多い会社なら、ラクスルバンクとの相性は高くなります。銀行口座を使うことでラクスルポイントにつながり、そのポイントを再びラクスルで使えるため、グループ内で支出を循環させられるからです。
月額料金をかけずにセカンド口座を作りたい会社
「まずは決済口座を分けたい」という会社にも向いています。月額・口座維持・管理費が0円なので、毎月大量の振込を行うわけではない会社でも口座を維持しやすいのがメリットです。
特に創業したばかりの法人や、従業員数人程度の小規模法人であれば、最初から高機能な経理システムを契約するより、シンプルな口座の方が使いやすいケースもあるでしょう。
デビットカードで経費管理したい会社
広告費、Webサービス、備品などをデビットカードで支払いたい会社にも候補となります。口座残高から即時決済されるため、クレジットカードのように後から大きな請求が来ることを避けやすく、資金管理もしやすくなります。
フィンサーバンクがおすすめなのはこんな会社
毎月の請求書が多い会社
毎月20枚、50枚、100枚と請求書を処理する会社では、振込手数料以上に「経理担当者の時間」が大きなコストになります。請求書を見ながら銀行口座、支店、口座番号、金額を入力する作業を繰り返しているのであれば、AI読取から振込までつながるフィンサーバンクのメリットを感じやすいでしょう。
経理担当者が少ない会社
「経理DX」と聞くと大企業向けに感じるかもしれませんが、むしろ経理担当者1~2人の会社ほど効果は大きいと考えられます。一人しかいない担当者が振込、請求書発行、経費精算、入金確認をすべて担当している場合、その一部分を自動化するだけでも負担は変わります。
中小企業庁の2026年版白書でも、中小企業のAI活用が進みつつあり、特にバックオフィス部門でAIが活用されている状況が示されています。
振込件数が多い会社
取引先や外注先が多く、毎月100件を超える振込が発生する会社では、1件数十円の差も年間では大きくなります。さらに給与振込が多い企業の場合、フィンサーバンクの上位プランでは給与振込手数料も低く設定されているため、従業員数を含めて年間コストを試算してみる価値があります。
どちらも「メインバンク」ではなくセカンド口座として考えたい
ここは今回の記事で最も重要なポイントです。ラクスルバンクやフィンサーバンクが便利だからといって、地方銀行や信用金庫との取引をすべて終了してしまう必要はありません。
むしろ中小企業の場合、「融資・経営相談は地域金融機関」「日常的な支払い・振込は低コストなオンライン口座」という使い分けが合理的です。地方銀行や信用金庫などの地域金融機関には、融資だけでなく企業の事業性評価、経営改善、生産性向上などを支援する役割も期待されています。金融庁も地域金融機関に対し、企業の事業性に基づく融資やコンサルティング機能の発揮を促しています。
特に設備投資、運転資金、不動産取得、事業承継などで数千万円規模の融資が必要になったとき、「自社の事業内容を以前から知っている金融機関」が存在することには意味があります。そのため、メイン口座は地方銀行・信用金庫など、決済口座はラクスルバンクまたはフィンサーバンクという2階建ての銀行取引は、中小企業にとって現実的な選択肢だと考えます。
フィンサーバンクの公式ページでも、入金口座をメインバンクに残しながら、振込元口座だけをフィンサーバンクへ変更している利用者がいると説明されています。すべてを1行に集約する時代から、「目的によって銀行口座を使い分ける時代」に変わりつつあるのかもしれません。
なぜこのような金融サービスが増えているのか
中小企業の人手不足が深刻になっている
背景として最も大きいのは、人手不足だと考えます。中小企業庁は2026年の年頭所感で、約6割の中小企業が人手不足の問題に直面しているとしています。人を増やして経理部門を拡大することが難しい以上、企業側は「今いる人数でどう仕事を回すか」を考えざるを得ません。
そこで銀行振込、請求書処理、経費精算などをデジタル化する需要が生まれます。ラクスルバンクやフィンサーバンクは、こうしたニーズの延長線上にあるサービスと考えられます。
銀行とSaaSの境界線が薄くなっている
以前の銀行は「預金する、振り込む、借りる」という場所でした。しかし企業からすれば、銀行振込そのものが目的ではありません。請求書を処理し、支払いを行い、帳簿に記録し、経費として管理するまでが一つの業務です。
それなら最初から請求書、振込、承認、会計データを一つにつなげた方が効率的です。フィンサーバンクがこの方向を強く進めている一方、ラクスルバンクは銀行サービスをラクスルの業務支援サービスにつなげています。銀行を単独のサービスとして考えるのではなく、「仕事の流れの一部」として組み込む動きが強くなっていると見ることができます。
電子帳簿保存法などへの対応も追い風
請求書や領収書のデジタル化が進んでいることも背景の一つでしょう。国税庁は電子取引で受け取った請求書、領収書、注文書などについて電子データでの保存を求めています。
請求書を紙で管理し、振込だけネット銀行で行う仕組みよりも、最初からデータとして処理できるサービスの方が業務フローを作りやすくなっています。こうした制度、AIの普及、人手不足、BaaSの発展が重なり、今後も「銀行+業務システム」というサービスは増えていく可能性があります。
結局、ラクスルバンクとフィンサーバンクはどちらを選ぶ?
最終的には、会社が何に困っているかで決めるのが良いでしょう。
振込手数料を抑えながら、月額料金0円でシンプルな法人口座を持ちたい。普段からラクスルを利用しており、デビットカードやポイントも活用したい。このような会社なら、ラクスルバンクが有力な候補になります。
一方、毎月大量の請求書を処理している、振込作業そのものより請求書入力や承認作業に時間を取られている、経理担当者が少なくバックオフィスをできるだけ効率化したい。このような会社なら、フィンサーバンクを検討する価値があります。
逆にいえば、単純に「119円と90円だから29円安い方を選ぶ」という比較だけでは、この2つの違いを十分に捉えられません。ラクスルバンクは「決済をシンプルで使いやすくする口座」、フィンサーバンクは「決済を起点に経理業務そのものを効率化する口座」。この違いを理解して選ぶことが重要です。
まとめ|これからは「1社1銀行」ではなく目的別に銀行を使い分ける時代へ
ラクスルバンクとフィンサーバンクは、どちらも中小企業の金融コストや業務負担を減らすことを狙った新しいサービスです。ただし、両者の優劣を一律につける必要はありません。
ラクスルを利用する機会が多く、シンプルな決済口座、デビットカード、低コストな振込環境を求めるならラクスルバンク。請求書処理、振込、経費精算などをまとめ、バックオフィスそのものを効率化したいならフィンサーバンク。そして、融資や経営相談では地方銀行や信用金庫などの地域金融機関との関係も残しておく。このような役割分担が、これからの中小企業には合っているのではないでしょうか。
「どこの銀行をメインにするか」だけを考えるのではなく、「どの金融機関に、どの仕事を担当してもらうか」という視点で法人口座を設計する時代になってきています。振込手数料を数十円節約することも大切ですが、経営者や経理担当者の時間を毎月数時間減らすことができれば、その効果はさらに大きくなります。
ラクスルバンクとフィンサーバンクは、従来の銀行を置き換える存在というより、中小企業の銀行取引をより効率的にする「新しいセカンド口座」として考えると、その価値が見えやすくなります。自社が削減したいのが「振込コスト」なのか、それとも「経理にかかる時間」なのか。まずはそこから選んでみるとよいでしょう。
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出典・引用
▶ ラクスルバンクの公式ページはこちら
▶ フィンサーバンクの公式ページはこちら
▶ 金融庁「金融サービス仲介業者登録一覧」はこちら
▶ 金融庁「金融機関の取組みの評価等に関する企業アンケート調査」はこちら
▶ 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」はこちら
▶ 国税庁「電子帳簿保存法一問一答」はこちら
本記事は、2026年9月時点の各社公式サイトおよび官公庁の公開情報をもとに作成しています。手数料、利用条件、対象法人、サービス内容などは変更される場合があるため、申込前に必ず公式ページで最新情報をご確認ください。また、口座開設には各金融機関所定の審査があります。本記事は特定のサービスへの申込みを推奨するものではなく、各社の特徴を比較するための参考情報として掲載しています。なお、本記事には広告を含みます。