2026年2月末に中東情勢が一気に緊迫化してから、金融市場は大きく揺れ動きました。地政学リスクが高まると、一般的には株式市場が下落し、原油価格や安全資産とされる金が上昇しやすいと考えられます。しかし、実際の市場は単純ではありません。
今回の3カ月間を見ると、原油は急騰したものの、株価は一時急落したあと大きく回復しました。為替は円安水準で高止まりし、長期金利は上昇を続けました。一方、純金は意外にも下落し、ビットコインは一度上昇したあと調整しています。
本記事では、2026年2月28日から5月28日までの3カ月間について、日経平均、ダウ平均、為替、原油、純金、ビットコイン、長期金利がどのように動いたのかを項目ごとに整理します。単なる価格の羅列ではなく、「なぜそのような動きになったのか」という背景も踏まえて解説します。
まずは3カ月間の全体像
今回の金融市場を一言で表すなら、「初期ショックからのリスク資産回復と、原油・金利高の継続」です。
2月28日時点では、中東情勢の悪化を受けて市場が警戒感を強めました。その後、3月27日にかけて日経平均とダウ平均は大きく下落しました。投資家がいったん株式を売り、リスクを避ける動きが強まったためです。
一方で、原油価格は2月28日の67.0から3月27日には99.6まで急上昇しました。上昇率は約48.7%です。中東は世界のエネルギー供給において重要な地域であり、供給不安が高まれば原油価格は敏感に反応します。特に日本は原油輸入の中東依存度が高いため、原油高は企業コストや家計負担にも直結しやすいテーマです。
4月以降は、株式市場が大きく反発しました。日経平均は4月28日に59,917、5月28日には64,693まで上昇し、2月末の水準を上回りました。ダウ平均も同様に回復し、5月28日には50,644となっています。
ただし、株価が回復したからといって、リスクが完全に消えたわけではありません。原油は5月28日時点でも90.9と高水準で、長期金利も2.70%まで上昇しました。つまり、投資家心理は改善したものの、インフレ圧力や金利上昇リスクは残り続けたといえます。
日経平均:3月に急落、5月に過去最高圏へ回復

日経平均は、2月28日の58,850から3月27日には53,373まで下落しました。下落幅は5,477円、下落率は約9.3%です。中東情勢の悪化により、海外投資家を中心にリスク回避の売りが出たと考えられます。
特に日本株は、海外投資家の売買動向に左右されやすい特徴があります。地政学リスクが高まると、まず流動性の高い大型株や指数先物が売られやすくなります。3月の下落は、まさにそのようなリスク回避の動きが表れた局面といえるでしょう。
しかし、4月28日には59,917まで回復しました。3月27日からの上昇率は約12.3%です。さらに5月28日には64,693となり、2月末比では5,843円高、上昇率は約9.9%となりました。
この回復の背景には、いくつかの要因が考えられます。第一に、初期のパニック売りが一巡したことです。地政学リスクは市場に大きな不安を与えますが、時間が経過すると投資家は「実体経済への影響はどこまで広がるのか」を冷静に見極め始めます。第二に、円安が輸出企業の業績期待を支えたことです。為替が1ドル159円前後で推移したことで、自動車、機械、電機などの輸出関連株には追い風となりました。
ただし、日経平均の上昇を単純に楽観視するのは注意が必要です。原油高と長期金利上昇は、日本企業のコスト増や住宅ローン金利の上昇につながる可能性があります。株価は先行して回復しましたが、実体経済への影響はこれから表面化する可能性もあります。
ダウ平均:米国株も3月に下落、ただし回復力は日本株より緩やか

ダウ平均は、2月28日の48,977から3月27日には45,166まで下落しました。下落幅は3,811ドル、下落率は約7.8%です。日経平均と同じく、3月に大きなリスクオフの動きが出ました。
米国株は世界の投資マネーの中心であり、地政学リスクが高まると資金の逃避先にもなります。一方で、米国企業はグローバルに事業を展開しているため、原油高や物流コストの上昇、消費者心理の悪化を織り込む形で売られやすくなります。
4月28日には49,141まで回復し、2月末水準を上回りました。3月27日からの上昇率は約8.8%です。5月28日には50,644となり、2月末比では約3.4%の上昇となりました。
日経平均と比較すると、ダウ平均の回復率はやや控えめです。日経平均が2月末比で約9.9%上昇したのに対し、ダウ平均は約3.4%の上昇にとどまりました。これは、為替の影響を受けやすい日本株と、インフレや金利の影響を強く受ける米国株の違いが表れた可能性があります。
米国では、原油高がインフレ再燃につながると、利下げ期待が後退しやすくなります。金利が高止まりすれば、株式の理論価値には下押し圧力がかかります。そのため、米国株は回復しながらも、金利上昇への警戒感が残る展開だったといえるでしょう。
為替:円安が進行後、159円台で高止まり

為替は、2月28日の1ドル156.1円から3月27日には160.3円まで円安が進みました。変化率は約2.7%です。地政学リスクが高まる局面では、本来であれば安全資産として円が買われる場面もあります。しかし、今回の局面では円高ではなく円安が進みました。
背景には、金利差への意識があります。日本の長期金利は上昇しているものの、為替市場では米国金利やドルの強さも重要です。米国金利の上昇や高止まりが意識されると、ドルが買われやすくなり、結果として円安・ドル高につながりやすくなります。
4月28日は159.6円、5月28日は159.4円と、3月末の160.3円からはやや円高方向に戻したものの、依然として159円台の円安水準が続きました。2月末比では3.3円の円安で、変化率は約2.1%です。
円安は日本株、とくに輸出企業にとっては業績上の追い風になりやすい一方、家計にとっては輸入物価の上昇要因になります。原油価格が高止まりしている局面で円安が続くと、エネルギー価格や食料品価格に上昇圧力がかかりやすくなります。
つまり、為替市場は「株高を支える材料」であると同時に、「生活コストを押し上げる材料」でもあります。投資家にとってはプラスでも、家計にとっては負担増につながる点に注意が必要です。
原油:3月に急騰し、5月も高水準を維持

今回の3カ月間で最も大きく動いたのが原油です。2月28日の67.0から3月27日には99.6まで急騰しました。上昇幅は32.6、上昇率は約48.7%です。
原油価格は、地政学リスクに非常に敏感です。特に中東地域では、石油関連施設、タンカー、港湾、海峡などに不安が生じるだけで、市場は供給リスクを織り込みます。今回も、中東情勢の緊迫化によって「必要な量の原油が安定的に供給されるのか」という不安が高まり、価格が急騰したと考えられます。
4月28日は99.9となり、3月末とほぼ同水準でした。これは、初期の急騰後も供給不安が完全には解消されなかったことを示しています。5月28日には90.9まで下落しましたが、2月末の67.0と比べると、なお約35.7%高い水準です。
原油高は、金融市場だけでなく実生活への影響も大きいテーマです。ガソリン、軽油、灯油、航空燃料、電気料金、物流コスト、食品価格など、幅広い分野に波及します。企業にとってはコスト増、家計にとっては支出増につながるため、原油価格の高止まりは景気の重しになります。
また、原油高はインフレ圧力を強め、中央銀行の金融政策にも影響を与えます。インフレが再び強まれば、利下げが遠のいたり、場合によっては追加利上げが意識されたりします。今回、長期金利が上昇した背景にも、原油高によるインフレ懸念が影響している可能性があります。
純金:安全資産のはずが下落した理由

一般的に、地政学リスクが高まると金は買われやすいとされています。しかし、今回のデータでは純金は下落しました。2月28日の5,248から3月27日には4,509へ下落し、下落率は約14.1%です。
これは一見すると意外な動きです。中東情勢が悪化すれば、安全資産として金が買われるはずだと考える人も多いでしょう。しかし、金価格は地政学リスクだけで決まるわけではありません。金利、為替、投資家の換金需要、他資産との相対的な魅力度など、複数の要因で動きます。
特に金利上昇局面では、金には逆風が吹きやすくなります。金は利息を生まない資産です。そのため、債券利回りが上昇すると、投資家は「金を保有するより、利回りのある債券を持った方がよい」と考えやすくなります。今回、長期金利が2.11%から2.70%まで上昇したことは、金価格の上値を抑える要因になった可能性があります。
4月28日は4,592とやや回復しましたが、5月28日には4,458まで再び下落しました。2月末比では790安、下落率は約15.1%です。
この動きから分かるのは、「有事の金」は必ず上がるわけではないということです。地政学リスクが高まっても、金利上昇やドル高が同時に進むと、金価格は下落することがあります。金投資を考える際は、ニュースの見出しだけで判断せず、金利や為替の動向も合わせて見る必要があります。
ビットコイン:4月に急騰、5月はやや調整

ビットコインは、2月28日の66,995から3月27日には66,364へ小幅に下落しました。下落率は約0.9%で、株式市場ほど大きくは崩れませんでした。
その後、4月28日には76,346まで上昇しました。3月27日からの上昇率は約15.0%です。リスク資産全体が回復する流れの中で、ビットコインにも資金が戻ったと考えられます。
ビットコインは、株式と同じようにリスク資産として扱われる面がある一方、法定通貨や金融システムへの不信が高まる局面では代替資産として買われる面もあります。そのため、地政学リスク時の反応は一方向ではありません。今回のように、初期局面では大きく動かず、その後リスク選好の回復とともに上昇するケースもあります。
5月28日は73,277となり、4月末からは約4.0%下落しました。ただし、2月末比では約9.4%の上昇です。日経平均と同程度の上昇率となっており、3カ月全体で見れば堅調な推移だったといえます。
もっとも、ビットコインは価格変動が大きい資産です。地政学リスク、金利、規制、機関投資家の資金流入、ドル相場など、さまざまな要因で短期間に大きく動きます。今回も4月に大きく上昇したあと、5月には調整が入りました。投資する場合は、短期の値動きに振り回されない資金管理が重要です。
長期金利:3カ月で2.11%から2.70%へ上昇

長期金利は、2月28日の2.11%から3月27日には2.37%、4月28日には2.46%、5月28日には2.70%へ上昇しました。3カ月間の上昇幅は0.59%ポイント、つまり59bpです。
長期金利の上昇は、今回の市場を読み解くうえで非常に重要です。株価が回復し、ビットコインも上昇した一方で、金利は一貫して上昇しました。これは、市場が「中東情勢による景気後退」だけでなく、「原油高によるインフレ再燃」も警戒していたことを示しています。
原油価格が上昇すると、エネルギーコストが上がります。エネルギーコストが上がれば、企業の生産コストや物流コストが増え、最終的には物価上昇につながりやすくなります。物価上昇が続くと、中央銀行は金融緩和に動きにくくなり、金利が高止まりしやすくなります。
日本でも、長期金利の上昇は生活に直結します。住宅ローンの固定金利、企業の借入金利、国債の利払い費、金融商品の利回りなど、幅広い分野に影響します。預金者にとっては金利上昇がプラスに働く面もありますが、住宅ローン利用者や借入の多い企業にとっては負担増につながります。
特に今回のように、株価上昇と金利上昇が同時に進む局面では注意が必要です。株式市場は先行きの成長期待を織り込んで上昇している一方、債券市場はインフレや財政負担への警戒を示している可能性があります。両者のメッセージが必ずしも一致していない点を見落としてはいけません。
長期金利が2.7%を突破。生活への影響は? 日本の長期金利が2.7%台に乗ったことで、住宅ローン、国債、家計の資産運用に対する見方が大きく変わりつつあります。これまで日本では「金利は低いもの」という感覚が長く続いてきました。しかし、[…]
主要資産の騰落率まとめ
2月28日から5月28日までの変化率を見ると、最も上昇したのは原油で約35.7%でした。次いで日経平均が約9.9%、ビットコインが約9.4%、ダウ平均が約3.4%、為替は約2.1%の円安となりました。長期金利は2.11%から2.70%へ上昇し、金利水準としては大きな変化です。一方、純金は約15.1%下落しました。
この結果を見ると、今回の3カ月間は「有事だから安全資産が買われ、株が売られる」という単純な構図ではありませんでした。初期局面では株が売られましたが、その後は急回復しました。原油は高止まりし、金利は上昇を続けました。純金は安全資産でありながら、金利上昇の影響を受けて下落しました。
つまり、今回の相場で最も重要だったのは、地政学リスクそのものよりも、「地政学リスクが原油価格、インフレ、金利にどう波及したか」です。金融市場は、戦争や攻撃のニュースだけでなく、その後の物価、企業業績、金融政策まで先回りして動きます。
今後の注目点
今後の注目点は大きく3つあります。
1つ目は、原油価格が再び上昇するかどうかです。5月28日時点では90.9まで下がりましたが、2月末と比べれば依然として高水準です。中東情勢が再び悪化すれば、原油価格が100を超える場面も想定されます。
2つ目は、長期金利の上昇がどこまで続くかです。長期金利が2.70%まで上昇したことで、住宅ローンや企業の資金調達環境には影響が出やすくなっています。金利上昇が続けば、株式市場の上値を抑える可能性もあります。
3つ目は、円安の持続です。為替が159円台で高止まりすれば、輸出企業にはプラスですが、輸入物価にはマイナスです。特に原油高と円安が同時に進むと、エネルギー価格や生活必需品の値上がりにつながりやすくなります。
投資家としては、株価だけを見るのではなく、原油、為替、金利をセットで確認することが重要です。株価が上がっているから景気が良い、金が下がっているからリスクが消えた、という単純な判断は危険です。
まとめ:株価は回復したが、原油高と金利上昇リスクは残る
イラク攻撃から3カ月間の金融市場を振り返ると、初期のリスクオフから株式市場は大きく回復しました。日経平均は2月末比で約9.9%上昇し、ダウ平均も約3.4%上昇しました。ビットコインも約9.4%上昇しており、リスク資産には資金が戻ったといえます。
一方で、原油は2月末比で約35.7%高く、長期金利も2.11%から2.70%へ上昇しました。これは、金融市場が中東情勢の影響を完全に織り込み終えたわけではないことを示しています。特に原油高と金利上昇は、今後の企業業績、家計負担、住宅ローン、国債利払い費に影響する可能性があります。
また、純金が下落した点も重要です。「有事の金」というイメージだけで投資判断をすると、実際の相場とずれることがあります。金利が上がる局面では、金は必ずしも買われるとは限りません。
今回の相場から学べることは、地政学リスク時こそ複数の市場を横断して見る必要があるということです。株価、原油、為替、金、ビットコイン、長期金利は、それぞれ別々に動いているようで、実際には密接につながっています。
今後も中東情勢、原油価格、円安、長期金利の動向には注意が必要です。株価の上昇だけに目を奪われず、生活コストや借入金利への影響も含めて、冷静に金融市場を見ていくことが大切です。
参考・出典
外務省 「海外安全ホームページ イラク危険情報」
資源エネルギー庁 「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」
資源エネルギー庁 「日本の石油備蓄のしくみ」
資源エネルギー庁 「中東情勢を踏まえた燃料油の緊急的激変緩和措置」
財務省 「国債金利情報」
日本銀行 「日本の為替レートの動向と決定要因に関する分析」
本記事の市場データは、2026年2月28日、3月27日、4月28日、5月28日の価格データをもとに、筆者が集計・分析したものです。掲載している数値や騰落率は、参照するデータ元や集計時点によって異なる場合があります。本記事は、金融市場の動向を分かりやすく整理することを目的とした情報提供記事であり、特定の金融商品、銘柄、通貨、暗号資産、商品先物等の売買を推奨するものではありません。